教養講座 小説の話・24
戦火のなかの小説
原 誠
pp.41-43
発行日 1958年9月15日
Published Date 1958/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661910688
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8月15日—終戦の記念日がまたやつてきました。戦争がおわつてから,もう13年になります。この日を迎えるたびにそれぞれ,様々な感慨があり思い出があることでしようが,私たち誰でもが共通して,ふかく胸に刻みこんでおかなければならないのは,もう2度と再びあのような忌わしい誤ちをくりかえしてはならないことです。この8月15日が,私たちにとつて,そして私たちの子孫にとつても,いつまでもそうした意味をこめての記念日であつてほしいものです。今後の日本の歴史のなかで,この日以外に新しい戦争の記念日などというものができあがつたら,それこそたまりません。
戦争は,人類のもつているあらゆる美徳をうちこわしています。人と人が殺しあい,人類の智惠のかぎりをお互いに壊しあつている戦いのなかからは,すぐれた文学も勿論うまれてくるはずがないでしよう。私たちはとかく,8月15日を記念日とする戦争というと,昭和16年12月の真珠湾攻撃にはじまるあの対米英戦のことだけを念頭におきがちですが,実は日本の暗い時代は,もつと以前から続いていたのです。明治維新当初の近代化の作業のなかにすでに誤ちがあり,そこから歪みがつづいているわけですが,しかしそこまでさかのぼらなくとも,少くとも日本の帝国主養がひきおこした戦争の悲劇,不毛の時代は,昭和のはじめの満洲事変からつづいていたのです。満洲事変の勃発したのは,昭和6年でした。
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