知識の窓
酵素の話
倉富 一興
1
1順天堂大学
pp.44
発行日 1958年1月15日
Published Date 1958/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661910517
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- 文献概要
酵素とは何かという質問に答える前に,先づ具体的で我々に身近かなdiastaseを例にとつてみましよう。1833年にPayenとPersozという人が初めて,麦芽からデンプンを糖化する(麦芽糖の様な単純な物質にする)物質を抽出して,diastaseと名づけました。その後いろいろな人による研究の結果,我々の唾液や膵液,腸液にも消化酵素として同様な酵素アミラーゼが含まれて居り,糖質の消化に重要な役割を演じていることがわかつたのです。また蛋白質や脂肪等の食物中に含まれる複雑な化合物も,種々の消化酵素により胃腸で単純物質に分解されて腸壁から吸収し易い形となり体内に入つてからまた蛋白質や脂肪に合成されるのですがこの際にも,また酵素の作用を必要なカロリー源をとり入れる時に既に我々は酵素の働きを必要とするのですが,一般に生物は体内に吸収した物質で自分の体を構成する物質を合成し,またそれ等の一部を分解して呼吸筋肉運動,消化吸収,排泄,もつとひろい意味でいえば機械的また化学的エネルギー源となる体内での化学反応をおこさせたりします。
けれどもそれ等の化学反応は我々の生体の中の条件,即ち温度は温血動物では大体37°位,また中性(酸性やアルカリ性ではなく)附近で行われなくてはなりません。普通の考えではこれ程おだやかな条件で,あれだけ複雑な化学反応がどうして生体の中で起り得るのか?という疑問が当然おこります。
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