2頁の知識
酵素の話
平井 秀松
1
1東大
pp.58-59
発行日 1956年1月15日
Published Date 1956/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661910040
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生物が無生物に較べて非常に特徴的なのは物質代謝を行うということです。即ち生体を構成している物質は絶えず新しく入れ替つているのです。近年放射性同位元素が生化学の研究に導入されて急速に物質代謝の消息が明かになつてきました。放射性同位元素は普通の元素と全く同じ化学的性質をもつているので,体内における動きは放射性のない元素と寸分違わないのですが,放射能をもつているためにとても見附けやすいわけです。丁度大勢の人混みの中で赤い大きなリボンをつけている人のようなものです。たとえば普通の炭素(C)の原子量は12ですが,14の原子量をもつた放射性炭素C14があります。これを含んだブドー糖を合成して動物に与えますと普通のブドー糖ならどこへいつたかわからなくなつてしまうのですが,C14は放射能があるのですぐ検出できます。ブドー糖は体の中で燃焼して炭酸ガスと水になり,尿あるいは呼気から排泄されますが,C14ブドー糖の場合は呼気の中の炭酸ガスに放射能が証明されるので,すぐに与えたC14ブドウ糖に由来するのだということがわかるのです。又たとえば骨は殆ど代謝をしていないのではないかと思われていたのですが放射性カルシウムを使つた実験で立派に新陳代謝をしていることがわかりました。100日位で骨の半量が新しく造られます。血清や肝臓の蛋白質はもつと早く代謝し,12日でその半分が新しく出来た蛋白質と入れ替ります。
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