随筆
よしのずいから—[看護婦,有刺鉄線,ケースワーカー]
山上 三千生
pp.58-61
発行日 1956年11月15日
Published Date 1956/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661910239
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ある夜,10人足らずの結核恢復者が集まつて文学論に花を咲かせていた。彼らはそれぞれ異つた病院や療養所でひとかどの療養体験を持つているので,話がたまたま過去の病生活に及ぶと一層舌がなめらかに回転するのであった。そこで私は看護婦という存在を彼らがどのように見ていたかを訊ねてみた。
—気持よく働いてくれた人は一割もいないんじやないかな。」と,その中の一人が答えた。他の者たちにも聞いてみると,採点に多少の甘い辛いの相違はあっても,大方の病院,療養所では,平均して一割か二割程度しか合格に値する看護婦はいないという結論が出た。だが勿論これは多分に自分勝手な患者側のデータであつて,彼女らの側から言わせれば,真面目に療養する患者は一割にも満たないとお小言を食うに相違ない。彼女たちは一介のサラリーガールであり,給料の大半をおやつにつぎこんでしまう食べ盛りの年齢の者も多い。廉い給料と過重な労働に貴い青春をすりへらしながら,医療施設の中で最も大切な役割の一つをになつていることを知れば,看護婦という職業が,社会一般が考えるように美しく安易なものではないことが充分に理解されよう。
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