教養講座 小説の話・5
「舞姫」「高野聖」「たけくらべ」
原 誠
pp.48-52
発行日 1956年11月15日
Published Date 1956/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661910237
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
この前の号では,浪漫主義文学というのがどんなものであるか,ヨーロッパにおける発生状態やその本来的な意義について説明しているうちに,所定の紙数が切れてしまったので,日本の浪漫主義の作品については,詳しいことが何も述べられませんでした。そこで今月は,小説を三つ紹介します。いずれも中学の頃や高等学校の頃に,教科書その他でお読みになつたものばかりでしよう。が,先月の「浪漫主義理論」と対比しながら,もう一度読みかえしてみてください。
まず,「舞姫」—これはドイツ留学を終えて帰朝したばかりの森鷗外が,明治23年に発表した処女作の小説で,主人公は某省から派遣されてベルリンに留学した,太田豊太郎という青年官吏。5年間の留学を終えて帰朝の船中にある主人公が,異国で知りあった踊子エリスとの悲恋を回想して,悔恨と懊悩に責めたてられるという手法です。留学中ふとしたことから交わるようになつたエリスとの恋愛を中傷されて,彼は官を免ぜられ,その後しばらく相沢という親友の世話で或る新聞社の通信員になり,エリスの家に同棲して楽しい生活を過すことができたのでしたがやがてその相沢からも女との交渉は絶てとすすめられ,さらに大臣から帰国を勧告されて,やむなく承諾してしまつたのです。エリスはその頃太田の子をみこもつていました。彼女は愛人が帰国してしまうと聞いて気を失ない,発狂してしまう。
Copyright © 1956, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.