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ずいひつ—Apotheke
柏原 兵三
pp.110-111
発行日 1971年7月1日
Published Date 1971/7/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661917738
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ベルリンで2年間生活するにあたって、ふだん使い慣れている日本の薬を2年間分持って行ったということは前回この欄で書いたが、充分2年の用には足りると思っていたのに目算が外れて足りなくなってしまった薬もあった。そんな時には仕方がないので近所の薬屋へ行った。
ドイツの薬局はドイツ語でApothekeというが、大きく、古めかしくて、歴史の古さを感じさせる店が多い。昔使っていた秤や、粉末を作る器機などを飾って、その店が長く続いていて由緒のある薬局だということを示したりしている博物館を思わせるような店もあった。日本の薬局も概して大きな店が多いかも知れないが、地方の古い都市はいざ知らず、東京でそんな感じの薬局に入った経験を私は持たない。その頃私が使っていた独和辞典のApothekeの項には「薬種商」という訳語しか載っていないで、薬局という訳語は見あたらなかった。薬種商とは一体どんな店なのか、和独辞典の薬局の項を見るとApothekeとあるのに、と不思議に思ったものだが、実際にドイツの薬局を見ると日本の薬局とは大分感じが違い、確かに、薬種商のような古風さをしている。今ではその独和辞典は改訂されてApothekeの項には、薬屋、薬局という訳語がちゃんと挙げられているが、ドイツのApothekeと日本の薬屋とはまったく違うということを認識させる上では、「薬種商」という珍妙な訳しか挙っていなかったのもよかったと思うことがしばしばある。
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