——
婦長さん物語
関口 修
pp.170-173
発行日 1955年4月15日
Published Date 1955/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661909816
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
(1)
(……中耳炎,中耳炎,蓄膿症安巍那,あら又中耳炎,鼻カタルに外耳炎みんな大した病気ぢやないわ。ああ疲れた—)
医長からいいつけられた統計計を漸くのことで仕上げた耳鼻科の川瀬さんは,カルテを卓子の片隅へ押しやると,待ちきれないように椅子に身体を反らして,力いつぱい脊伸びをしながら大きく欠伸(あくび)をした。欠伸も脊伸びも,疲労からくる生理的の現象だから仕方がないけれど,運わるくそこえ小島婦長が入つて来た。あわててルゴールくさい掌で口を押えたが間にあわなかつた。いそいで椅子を離れた川瀬さんに,小島さんはいきなり室の入口を指さして,たたみかけて命令するように云つた。
Copyright © 1955, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.