発行日 1954年11月15日
Published Date 1954/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661909693
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エフェドリンの効果は,適確に患者の上にあらわれた。中桐さんはアンプルを片ずけ乍ら,腕時計を見たら6時をすこし過ぎている。交代の時間なので,これからひと寝入りしようと廊下へ出ると,街はすつかり朝になつている。窓から見ると裏通りの鳥屋では,若い男が籠から鶏を出している。その傍に,ワンピースに黒いベルトを締めた女が,歯ブラシを使いながら見ている。中桐さんは階段の所で足をとめ,カーテンをひきながら今度は表通りを眺めた。その時,土州橋を渡つてくる1人の女がある。白い靴の軽い足どりが,夏の朝の風景にふさわしかつた。病院の窓の下へ来ると,その女は中桐さんを見上げて高々と手を振つた。
(あつ,婦長さんだ—)
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