講座
病氣と人間関係
淺賀 ふさ
1
1中部社会事業大期大学
pp.27-30
発行日 1954年2月15日
Published Date 1954/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661909506
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病気の社会性という題を本誌編集室より与えられたが,私はこゝで病気と人間関係と改題することを許していたゞいて,医療社会事業の立場から一言筆をとつて見たいと思う。
人間は病気に罹ると,どんな病気であつても,健康な時よりは依存的になり,人の注意と関心を要求する。実際に人の世話にならなければならないには相異ないのであるが,それ以上に,健康の破壞された状態からくる苦痛と不安の故に,心理的に依存性が増大する。病人でない人々といえども,他の人々に全く依存せずに生活できるというわけではないが,健康で正常な成熟した成人の依存性というものは相互依存で,人との関係は大体上げたり貰つたり(ギブエンドテーク)の関係にある。病人の依存性は著しく一方的で,受身のそれとなり,それは自己の安否が総べて母親の愛情と世話とにかゝつていた新生児から幼児期にかけて母親に抱いていた古い依存欲求のよみがえつたものと考えることができ,これは一つの退行現象と解釈される。これは病人が我侭になりやすく,又子供つぽくなることを考えれば,容易に理解できる事実であろう。或緑内障の患者が,妻の外出中はいつも特にはげしい眼痛を訴えた例などは,依存欲求のニードが充されない状態と解釈されてよいであろう。
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