講座
神経性の訴え
鈴木 聖洪
1
1東京大学医学部神経科
pp.14-18
発行日 1953年12月15日
Published Date 1953/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661909469
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神経性という意味
われわれは神経性という言葉をよく使いますが,これは中枢神経や末梢神経がおかされて,何らかの病変を起しているという意味ではありません。それどころか,身体的に,あるいは神経学的にどんなにくわしく検査してみても,少しも異常がないのに,あたかも身体のどこかに重大な病変があるかのような症状を現わしてくるのであります。こういう病気をわれわれは神経症とよんでいますが,広い意味で神経性の病気と考えてよいでしよう。
神経性の病気は精神的な(或は心理的な)理由によつて起つてくるもので,いわゆるわれわれの精神作用によるものであります。それゆえ病気といえない程度のものは誰でも日常経験しています。たとえば,入学試験が心配で,食事が少しも進まないというのは,神経性の食慾不振であり,明日手術をうけるという患者さんが前の晩まではよくねむれたのに,その晩にかぎつてねむれなくなるなどというのも神経性の不眠であります。ですから,このような場合や重症な患者に接するときには充分言葉を慎しまなければならないのみならず,すゝんで精神的な安心感を与えてやらなければならないことはいうまでもありません。また,夢中で遊んでいた子供がふと自分の足のかすりきずから血が出ているのを見て,急に痛みを感じて泣き出すような場合も実際のけがの上に精神作用が加わつているものと考えてよいでしよう。
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