メロデイーの泉・1
シユーベルト
山本 金雄
pp.57-59
発行日 1953年10月15日
Published Date 1953/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661909430
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処はウイン,一世を風靡した大音楽家ベートーヴエン逝いて,はや一年経つて或る晴れた朝,菩提樹の茂る城趾の入口に一枚のポスターが陽に照らされて,おぼろげに読みとれた。第1回シユーベルト作品発表演奏会,日時は1828年3月26日,この日こそは彼シユーベルトが崇拜してやまなかつたベートーヴエンの命日である。風采の上らない小心なシユーベルトもベートーヴエンの瀕死の床で一度会つて自分の作品を見て貰つたときに,金聾の彼が「シユーベルトには神聖な火花がある」といつてほめちぎつた感激が忘れられず,ベートーヴエンのお葬式には棺の廻りに付く38人の炬火持の一人に加つた程であつたが,その1周期の命日に,人の薦めによつて偶然にシユーベルト一生に唯一度の発表演奏会を聞くことができたという事は,非常な感激であつた。しかも当時第1流の歌手フオーグルに出演して貰い,無名に近かつたシユーベルトの第1回発表演奏会が,満員の盛況で大成功裏に終り,そのうえ800グルデンの純益を上げ,初めてピアノを買うことができた。以前に於ても,300グルデン500グルデンとまとまつた金を作曲料として出版会社から送つてきたのであるが,気前のよいシユーベルトは,いつも友達に御馳走をして了うのであつた。
純潔で素朴なシユーベルトは非常に菩提樹を愛し,菩提樹の下でよく昔を想い浮べるのであつた。
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