発行日 1953年6月15日
Published Date 1953/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661907306
- 有料閲覧
- 文献概要
雨が降ります雨が降る 遊びにゆきたし 傘はなし 紅緒のかつこの緒もきれた
梅雨が來て,くる日もくる日もシトシトと降りつゞく雨に,少しの時間もじつとしていることが苦痛な子供が,いやでも家の内にとじこめられていなければならない,つらそうな,悲しそうな文句に同情して,4歳になる姪のお相手をしてお客様ごつこをしていた。「毎日雨が降つて困りますわネ」と,一人前にあいさつをするおしやまな女の子は,「一寸,お茶をいれて參ります」と,主婦ぶりよろしく臺所に消えてしまう。オヤオヤと思い乍らあたりを見廻していると,本棚の上に大きな四角いガラスの金魚鉢がのつていて,黒い大きな出目金とも都合3匹の金魚が,ゆうゆうと泳いでいる。みるともなしにみていると,その出目金は,鉢の隅まで泳いでいつて鉢に頭をくつつけてはもどつて來る。又しても泳いでいつてはもどつて來る。そんなことを何邊もくり返しているのである。何をしているのだろう?外に出たいのであろうか?子供こそこの梅雨の間だけは家にとじこめられているけれども,雨があがればきつと表にとび出していくに違いない。併し,金魚は何時になつたら自由な世界に泳ぎ出せるのだろう……。金魚の運命は……?でも金魚は鉢からとび出してしまえば,自由世界どころか,直ちに生命にすら危険を及ぼすものなのだから,やつぱり鉢の内が金魚の天國なのだろう。
Copyright © 1953, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.