発行日 1952年2月15日
Published Date 1952/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661906991
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クリスマス・イヴの夜でした。お招きをうけて久し振りに映畫をみました。それは今評判のロシア映畫「夜明け」でした。新聞や雑誌にのつていた批評はよんでいたのでしたが,豫想通り非常に強く,深刻に人の感情に訴えた映畫でした。久し振りにみたせいではなく,終始緊張してストーリーの中にはいりこんでしまう。觀終えた時にホツ! として肩を二つ,三つトントンとたたき度くなつた映畫でした。併し,もう一つ,期待通りに滿喫したのは素晴しい音樂でした。物語りの中に織り込まれて,常に何かの形で表現されているのです。わけても合唱の美しいこと。元來私は男聲合唱が大好きなのです。巾のある,力強い調子,地の底から湧き上つて來るような迫力・空に舞うような輕快さはありませんが,ぢつくりと,とけこむことの出來る落付き,ロシアの民族音樂の特徴である男聲合唱を私はこよなく愛しています。かつて,やはりこれもクリスマスの頃でした。外國の或街で,はからずもみたロシア映畫「パラライカ」というのの中に現われる場面,クリスマス休戰に,ざんごうの中で,或は凍りつく慶野の夜のほ哨に,兵隊達が眞心こめてうたつたクリスマス聖歌の合唱,その莊嚴な,そして深い敬けんにみちあふれた美しさは,今尚耳の底に,いえ,心の奧にはつきりと,のこされています。合唱の美しさは,聲の美しさもあります。が合唱の生命は「ハーモニー」,聲の和,うたの協力にあるのです。
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