2頁の知しき
幻覺
猪瀨 正
1
1都立松澤病院
pp.24-25
発行日 1953年5月15日
Published Date 1953/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661907292
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幻覺という異常な心理現象はほかの病的心理現象に比して非常に目立つので,古くから専門醫の注意を惹いたし,一般の人々からも興味を以てみられて來た。それは精神病理學的には知覺の異常の一つであるとされる。正常の知覺には刺戟となる對象があるに反して幻覺では實際にはかゝる對象はない。しかも正常の知覺と同様な感覺的な強さと明瞭さをもつていて,その對象は恰も外界にあると判斷されるのである。また通常それはその人の意志とは無關係であることも知覺と同じである。
さて幻覺は單獨に現れるものではなくて,錯覺,假性幻覺などの妄覺やその他の症状と共にみられるのが通例で,またその背景には全精神生活の變貌があるのが常である。分裂病などでは自我と外界との繋りが失われて,現實の世界から遊離して行く。しかしそれは所謂意識障碍を伴うことはない。意識清明にして聲が聞え,物が見えて來るのである。ところが,譫妄や朦朧状態などの意識溷獨や意識變化がある際にも幻覺が生ずる。すなわち,幻覺發生の素地には意識障害のない場合とある場合があるといえよう。
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