學院だより
大阪赤十字高等看護學院—學窓の秋に心を寄せて
學生會
pp.38-39
発行日 1953年2月15日
Published Date 1953/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661907246
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黄昏の窓邊で机に向いヴェルレーヌの詩集を開いで静かに音なき調べに耳を傾けていると一陣の風に乘つて黄色に染んだ銀杏の葉がひらひらと舞い込んで詩集の栞となつた.たゞ無性に懷しい秋の香を染めた様な銀杏の一葉を手にして,そつとまさぐると指元から秋の情趣が血流の如く脈打つて通つてくるのを感じた。折からさし入る夕陽の茜にその秋の血潮は躍動し私達若き女性の内に燃える情熱を甦えらせてくれる。心の炎に熱つぽい瞳を茜空に投じると天然の巻繪の美しさの中に私達の樂しい歩みが再映してきた。1週間前に催された大運動會,2週間前に催された文化祭……。8時間實習勤務に含まれる學課に日中の忙しさに解放され,夕食・入浴や洗濯等をすませてやつと自分の時間を得る。7時頃から約1時間程毎夜集つては演劇の練習,お互いに直し合い,又演劇に深い興味や經驗のある先輩のナースにコーチしていただき,出演者は勿論,クラスメーツも凝音や照明に又舞臺装置に總動員,一つの目的の爲に結ばれた心が瀧を逆上る鯉の様に生き生きとした命の働きとして現われ有志にて畫かれたバツクに裏うちをする爲に糊をたき,いそいそと新聞紙の上を刷毛で塗り上げ,12時をオーバーしても一心に成し遂げ,やつと出來上つた畫を眺めてお互いに微笑みかわした喜びに滿ちた顏々。
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