発行日 1953年2月15日
Published Date 1953/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661907247
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
終戰がもう少し早かつたら,救われたであろうに……と道々,復興の前橋の街を眺めながら来たが,自動車を下りて,日赤病院の正面に,棕櫚と松の木の生きいきと茂つている築山を見たとき,私はすつかり明るい氣持ちになつた。通されたのは日當りのよい院長室。壁には幾つかの油繪が懸けてあり,その中にただ一つの日本畫「神農」の額が,日赤の使命を暗示するかのように眼に映つた。待つ間のしばし—窓越しにバルコニーの,見事な鉢の盆裁を見入つていると,静かな部屋の空氣になごむ古風な柱時計の音……あたたかい書だ。(お待たせしました—)
入つて来られた久保園院長は,老鶴のように落ちつきと,親しみのある方だつた。やがて學院に電話で連絡して,氣輕に案内され,一緒に階段か下りる。廊下の所々に整然と置かれた擔架や運搬車に,心安さを覺えながら,教務室で金子監督に紹介される。人好きのよいハキハキした感じの婦長さんだつた。
Copyright © 1953, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.