発行日 1952年9月15日
Published Date 1952/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661907133
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今から20年も昔のことであるが,私は高等學校に入學して間もなく,胸を病んで2度まで四國の松山の赤十字病院に入院したことがある。そしてそこで幾人かの醫師や看護婦さん達の厄介になつた。それは丁度私が初めて故郷を離れて遠く遊學した感傷的な時代であつたので,芭蕉の葉づれの音の淋しいたそがれの病棟の2階の窓から,中庭のクローバの上に幾組かの白衣の看護婦さん達が腰を下して,膝の上に本など擴げていた光景を眺めた記憶が,いまも極めて鮮かに私のこころに殘つている。それが昔なつかしいままに,私のような門外漢が,編輯者の指示に從つてこのような表題で,何か書いてみることにした次第である。
私は總じて女性のもつ優れた特質は愛情の純粋性にあると考えている。これは男性が公共の仕事に專念して,抽象的理念的な價値の世界や現實的な事業の世界に,自己の第一の關心を措くのに對して,女性はその肉體的機能の規定からいつても,妻として又母として家庭を守つて,他の存在のために生きることによつて,間接的に自己を公共の世界に對して表現するという性向を有しており,それゆえ愛情の純粋性ということが,女性の存在意義の核心を形造るからだと思う。從つて私は女性の讀書というものは,一般的にいつてこの女性の本性に即して,愛情の純粋性を培つてくれるような讀書の仕方をすることが肝要だと思う。
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