発行日 1953年9月15日
Published Date 1953/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661909404
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前回には,読書の意味について記したのであるが,しかし読書が私達の魂の成長に大切なことは判つて居りながら,それがなかなか励行出来ない場合が多い。そういう場合どうして読書の習慣を養うかという問題が起つてくると思う。
私はそういう場合には,読書ということを余り固苦しく考えないで,どんな通俗的なものでもよいから,自分で眞に面白い作品から読み始めて,読むことが楽しいという経験をすることが,先ず大切なことだと思う。友人とつまらぬ饒舌や噂話に時を過している時よりも,独りで読書している時の方が心に何となく喜びがあるという経験をもつことが必要だと思う。そしてその喜びを深めるためには,どんなに幼稚でもよいから,書物の読後感を必ず記すことである。読み放しにしないで,一々ノートを取り短い感想を書いて読書しなければならない。そうすれば書くということによつて,読書は受動的なものから能動的なものに代り,読書は私達にささやかではあつてもひそかな創造の喜びを伴うようになつて来るのである。読後感が10頁20頁とたまり,年月の経つ中にやがて自分の机の上に読書ノートが1冊,2冊と積み重ねられて行く喜びは,思つても快い爽かな魂の成長の喜びである。その上,こうしてノートを取り感想を書いて読み進めば,自然に眼がこえて來て,つまらない作品にいっまでも停滞するということは起らないのである。
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