--------------------
讀者からの手紙
栄田 幸江
1
1千葉保健婦専門学院
pp.5
発行日 1957年4月10日
Published Date 1957/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662201378
- 有料閲覧
- 文献概要
"両親医者の家に育つて,どうして医者にならなかつたのですか.さもさも保健婦よりずつと医者の方がよかつたでしように……"と,云わんばかりの面持ちで今もつて時々尋ねられます,しかも保健婦仲間から一番多く問われるのですから,私は不思議でなりません.この職業を選んだ動機,抱負を説明する前に,何故そういうことを聞くのか,却つて質問してみたくなります.そこで今日,過去をふり返り日頃考えていることを聞いて頂けたらと思いお便りします.
私は養成所在学中に終戦を迎え,卒業と同時に保健所に採用されました.県庁であらましの道順を教えられては来たものの,初めて踏む土地なので,駅前の交番で念の為方角をきいてみました.ところが誠に暖昧な返事で"さあーて"と考え込む始末です.私も詳しく聞いて来ればよかったのですが,保健所と云えば直ぐわかると思い込んでいたものですから,あつさりと聞いて来たことが悔まれてなりません.それから断片的な記憶をもとに説明すると,それならあの辺だから行つて見なさいと云われ,尋ね尋ねてやつと辿りついた事が忘れられません.帰りの途すがら,"はてな? たしか保健所はその地区の公衆衛生事業の中心となつて活躍している指導機関であると教わつた筈だが,こんなに地区の人が知らないのかしら"と考えたものです.その頃ならいざ知らず,道行く人は勿論,小学生でもすぐ教えてくれる今日になつて,"保健婦より医者の方が……"という保健婦の声を聞きながら淋しくなります.
Copyright © 1957, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.