名詩鑑賞
春の朝—ロバート・ブラウニング 上田敏譯
長谷川 泉
pp.62-63
発行日 1952年4月15日
Published Date 1952/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661907040
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上田敏の譯詩集「海潮音」の中には,ただに日本の近代詩に決定的な影響を與えたばかりでなく,人口にかいしやして,今なお忘れ難い韻律と詩的イメージを呼び起す作品が多々ある。「秋の日のビオロンの」ではじまるポール・ベルレーヌの「落葉」や「山のあなたの空遠く」ではじまるカール・ブツセの「山のあなた」や「ながれのきしのひともとは」ではじまるウイルヘルム・アレントの「わすれなぐさ」などがそれである。そして,ここにかかげたロバート・ブラウニングの「春の朝」もまたその一つである。
「石激る垂水の上のさ蕨の萠え出づる春になりにけるかも」一萬葉集巻8,志貴皇子の春を悦ぶすばらしい歌があるが,冬の陰鬱な風物が新春の装をこらして時を得る頃になると,必ずこのブラウニングの詩が口邊に浮んでくる,それ程この詩は駘蕩たる春の雰圍氣にマツチし,しかもその印象はきわめて明るく清潔である。
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