——
とびら わくらばのよろこび
pp.1
発行日 1953年7月15日
Published Date 1953/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661909358
- 有料閲覧
- 文献概要
かつて新聞紙上に度度紹介されたうら若い鬪病のヒロイン野村伊都子さんのことを,記憶にのこされたナースの方々も少くないことと思います。その野村さんについて,輝やかしい榮冠が與えられる時が來たことを,3度新聞が語り傳えていました。
少女から女性に移りかけた感情の豊かな,高等學校入學直前に,結核におかされ,不幸にも腎臟,ぼうこうと,次々に病魔の巣喰う體となり,それ以來實に8年,病床に親しむ身となり,其の間幾度か幽明境を分たぬあたりをさまよつたこともあるのでした。病床に横わる淋しい乙女の心は,同じ病氣になやむ未知の人への同情がつのり,手紙の交換によつて友情を深め,互に慰め,はげまし合い,ひたすら病にうち勝つ努力をつづけて來ていたのでしたが,或時,一人の友人の手紙によつて,盲人の結核患者の悲惨な苦しみをを知り,自分よりももつともつと不幸な人々のあることがわかり,まだまだ自分など幸せな方なんだと,自らを感謝すると同時に,自分のもつている力を何とか自分より不幸せな人に捧げたいと考えた末,盲人の患者の爲にまず點字を習つて手紙を書くこととし,次いで,自分自身の鬪病精神をやしなつてくれた貴重な指導書「正しい結核の知識」の邦譯を思いたち,2年かかつて之を完成し,昭和26年には全3册が刊行され,不幸な盲人患者に心のともしびをともした「愛の女性」として涙にあふれた感謝を受ける身となつたのでした。
Copyright © 1953, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.