わがteen age・5
生命の神秘と尊さ
林 塩
1
1日本赤十字社看護課
pp.36-40
発行日 1951年5月15日
Published Date 1951/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661906856
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私が生れたのは神戸市で,少女時代を過したのが通う千鳥の淡路島でした。10代もようやく半ばを過ぎようする頃,私はさてどうして自分の生涯を送ろうかと考えるようになりました。第一次世界戰爭がすんで,世界はあげて,平和時代に入ろうとしている頃でした。美しい自然の壞に抱かれた島の町で育つた私は,生來があまり賢くもないので,自分の將來に就いては,あまりはつきり考えることもしないで,ぼんやりと少女時代を過しました。大阪灣の中に,ぼうと浮び出ている島の淡路は,何んといつてものんびりしたところで,30年も前の當時は,定期航路の可愛らしい蒸汽船が,大阪からと,和歌山の淡輪からと1日1回づつ,私共の町の港に入つてくる外には,私がその當時大陸だと思つていた本州との交通はありませんでした。それで文化の波はそうひたひたと,島には押しよせては來ませんでした。人口2萬足らずの町には工場が1つしかないので,空氣はどこまでも清浮で,晴れた日には,室は心憎いまでに碧く,海からの風は何かしら特別に甘く爽やかであつたと記憶しています。島のこととて,海も山もかたまりあつていて,私共の家からすぐ近くに海が見え,海岸からすぐに高い山へ,登ることも出來ました。四季のそれぞれの島の眺めは美しく,春ともなれば,後の山の木々が,色とりどりに芽をふき,櫻が咲き,鶯が鳴く,夏は白砂青松の海邊で,海水浴に日を暮し,秋の紅葉は紺碧の海に白帆を背景として愉しんだものでした。
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