発行日 1950年7月15日
Published Date 1950/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661906673
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癌というのは,專門的に定義すると,惡性の上皮性の腫瘍ということになる。腫瘍は又新生物とも呼ばれ,組織の自律性の過剩の増殖である。我々の體を作つている組織は,色々な場合に,例えば傷のなおる時とか,炎症などの場合に過剩の増殖を營むのであるが,傷がなおれば組織は増殖をやめて瘢痕組織となり,炎症の時も,炎症を起した原因が去れば増殖もやむのである。即ち自律性はない。所が腫瘍の場合は一たんできると,全く自分勝手に増殖して,ひどい時にはとゞまることなくいくらでも大きくなつて行つてその宿主の死を來すことも珍らしくない。この自分勝手の所が自律性と呼ばれるのである。しかし同樣に自律性の過剩の増殖でも,極くゆるやかに増殖し,長い間そんなに大きくならないでいるものもあるし,急激に増大して1カ月もたゝない内に子供の頭以上の大きさに達するようなものもある。前者が良性の腫瘍と呼ばれ,後者が惡性の腫瘍と呼ばれる。この場合に性質が良いか惡いかは,腫瘍そのものゝ性質であつて,患者に對する影響が重いか輕いかということばかりできまるのではない。例えて見ると,よく皮膚の下に硬いころころした指の頭位の大きさの球があることがあるがこれは非常にたちのよい纎維腫と呼ばれる腫瘍であつて,こんなものはあつてもなくとも生命には全く關係がない。
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