講座
麻薬の話
福原 武彦
1
1東大薬理学教室
pp.16-19
発行日 1958年11月15日
Published Date 1958/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661910725
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医療にたずさわる人々にとつて麻薬はいろいろな点で深いつながりがあります。臨床的に最も有効な鎮痛薬として阿片アルカロイドを主体とする麻薬は医療のあらゆる分野で広く用いられる薬物です。では,麻薬と一まとめにして呼ばれる薬物にはどんなものが含まれ,それらの薬が人間を含めた生物体に対してどのような作用をもつているかを述べて見ましよう。
治療に用いられている薬の生れるまでの経過を振りかえつて見ますと,まず最初に,薬学者が中心となつていろいろな化学物質を合成したり,あるいは植物に含まれている有効成分を抽出します。これらの物質の生物体に対する作用を医学的な立場から調べる学問が,基礎医学の一部門として独立しております。このような研究を行う学問を薬理学(pharmacology)と呼び,研究の中心が化学的物質そのものの性質にある薬学(Pharmaceutics)と区別されています。薬理学者は合成あるいは抽出された新らしい化学物質の生物体に対する作用を主として動物実験によつて調べ上げ,毒性が小さく,しかも薬理作用の点で医療に利用される可能性があると判断すると,これを臨床医学者の手に渡して人体について臨床実験を行う段取りとなります。現在,治療薬として用いられている薬物はすべて,この過程を通つて検討された時代があつた訳です。
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