世界のナース・4 スイス
忍耐心と温い情
與謝野 秀
1
1外務省調査局
pp.28-31
発行日 1950年6月15日
Published Date 1950/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661906661
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外國で大病をしたことがないので,私はフランスでもドイツでも自分が看護婦に長い間厄介になつた經驗をもたない。この戰爭中にはスイスにいたので,サナトリアムの多いこの國でよく看護婦をみかけたが,自分が入院したのではないからやはり何も語る資格はない。たゞスイスの生活中に私の上役であつたS公使が半年の療養生活ののちに逝くなられたので看病をした思い出があるから,その時のナースのはなしをしたいと思う。
Sさんの病氣はたちの惡い肋膜炎であつた。スイスの首府ベルンの町は冬は霧が深く氣候はあまりよくないのであるが,病氣を醫者に診せるのを澁つたために手遲れとなり,もはや他の高い土地のサナトリアムに入院することができなくなつたのでベルンのヴィクトリアというクリニックへ入つた。窓を開けばアルプスの連峯を正面に眺める景色の素晴しく好いカトリック系の病院で,私の住んでいたアパートにほど近い高臺にあつた。このヴィクトリアで終始Sさんに附添つて親切の限りをつくしたのがイレーヌという50近い老孃のナースである。
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