看護學講座
婦人科學
糸井 一良
pp.48-56
発行日 1948年11月15日
Published Date 1948/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661906399
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第四講 性器の炎症
外陰部の炎症
1.急性外陰炎
原因 女性の外陰部は平常時でも其の皮脂腺からの分泌物があるのに,かてゝ加へて腟及び子宮の粘液腺からする分泌物を以つて常に濕潤して居り,他方排尿排便或は月経等の不潔になり易い機會が多いので,細菌の傅染も容易であると想像せられるが實際に於いては左程頻發するものではない。其の理由は成人の外陰部の表面は重層の上皮細胞からなり,外來の刺戟に對應して漸次肥厚し且つ其の一部は角化して居るから病原の感染に對して或る程度の抵抗力が強化せられて居る爲である。然しながら少女や妊婦の如く局所の抵抗力が脆弱になつて居る時や月經時の不攝生,消毒藥亂用による腐蝕,或は内性器よりする分泌物による刺戟等に依つて該部の上皮細胞が浸軟又は損傷を受ける時は容易に炎症の發生を見るのである。從つて外陰炎は單獨に發生する事は稀れであつて多くの場合,子宮,腟,尿路等の疾患に續發するものである。尚ほ,手淫,性交,暴行等による表皮の損傷,脂肪過多婦人の歩行時に起る大腿内側の摩擦,不潔による恥骨の蓄積等も亦誘因となる。時によると少女の肛門内に寄生する燒蟲が夜間に至り外陰部に遊出し其の刺戟による?痒を感する時或は同樣に糖尿病患者の外陰瘙痒の爲等に際しては無意識に掻きむい其の分泌物は更に炎症を増惡する基となる。炎症の原因となる微生物は甚だ多いが就中主要なるものは淋菌である。殊に少女の外陰炎の75%は淋菌である。
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