発行日 1947年9月15日
Published Date 1947/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661906233
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この頃よく原因不明の腹痛を訴へたり嘔氣があつたりして,それが蛔蟲の爲めであることが判つたと云ふ病人が多いと云はれています。實際に終戰後吾が邦には蛔蟲病に罹つて居る人が,田舍にも,都會にも,非常に多くなつているのです。そして蛔蟲が腸の中に數百匹も居つて,その爲め腸閉塞を起したり,或は蛔蟲が腸管の中ばかりでなく,肝臟や膵臟中に,又甚だしいときには肺臟の方へまで入り込んで,その結果死亡した病人の報告が方々の病院から報告されています。勿論,蛔蟲病の多くなつたことは,一般世間の人々も段々氣附いて,蛔蟲の害やその防遏について,かましく云つて來て居ることは,皆さんも新聞やラヂオで御承知の通りです。併し蛔蟲病は昔から吾が邦に比較的多かつたのではないかと想像されます。それはよく「腹の蟲が承知しない」とか「蟲の居所が惡かつた」とか「蟲が好かない」とかなどと云ふ言葉があります。それから考へると,我々の先祖には身體の中に蟲の居ることは,別段不思議ではない樣に思はれて居つたのではないかと考へられます。然し今日の樣な文化の進んだ社會では,國民の保健や社會公衆の衞生の見地から云つて,腹の中に蟲が居ることは望しいことははありません。皆さんの御腹の中に本當に蟲が居らないでしようか。
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