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蛔蟲
松林 久吉
1
1慶大醫學部
pp.13-16
発行日 1950年10月15日
Published Date 1950/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661906718
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蛔蟲を見たことのないと云う人は日本では少いであろう。それ程普通な蟲でありながら,それがみみ一歩に似ていると云うこと以上に進んだ知識をもつている人も少い。皆さんが蛔蟲を見たなら,一應それが雄であるか雌であるか位は注意して戴き度い。一般に雄は雌よりも小さく,その尾端が釣針状に曲つている。雌の方は尾端が眞直ぐに伸びている外に,體の前3分の1の附近に體を取卷く絞れがある(この絞れは不著明なこともある)。この絞の中に,針の先で突いた程の小さい孔が見られる。之が生殖口,即ち膣の開口部である。雄はその曲つた尾部を雌の絞にまきつけ,交接刺と云われる針を雌の膣に挿入して交尾する。
蛔蟲の體は要するに細長い袋であって,中は簡單な消化器と,よく發達した生殖器があり,これらの臟器の間隙には體腔液と呼ばれるビール色の透明な液が滿ちている。體壁を通して内部に見える白色の多數の線は生殖器である。生殖器は2本の細長い管であるが,それがわだかまつているために何本にも見えるのである。又體の兩側に,頭端から尾端まで走る一對の線が見られる。これを側線と云つて,この中に神經,排泄管がはいつている。皆さんは蛔蟲を見る機會があつたら,それを生理的食鹽水でよく洗つて,以上の諸構造を觀察して下さい。
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