発行日 1947年2月15日
Published Date 1947/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661906181
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從來日本に於て公衆衞生が向上し得なかつたのは種々の理由があつたのであるが,その一つは,公衆の單位である個人の犠牲に於て國力を充實し,之を戰力化しようとした國家主義的思想環境の下では,即ち個人の健康を守ることが國力の充實に直結する間は國家は保健問題を採り上げるが,個人の永遠の幸福追求を圖るための保健問題に採り上げられる筈もなかつたのである。即ち個人を個人として尊重する思想即ち民主主義の徹底こそ公衆衞生の向上の基本的要素であることに思ひを致さねばならないと思ふ。
さて保健婦規則第2條に依れば「保健婦ハ保健指導及療養補導ニ從事シ國民體力ノ向上ニ寄與スルヲ以テ其ノ本分トス」とあつて,保健婦の使命を國民體力の向上においてゐるのである。こゝに國民體力とは私の見解に依ると,(1)體格(身體計測値),(2)疾病及び異常(體質及び形態異常),(3)精神的及び肉體的機能を含めての總合力を指すものであると思ふ。體格を良くすると謂ふも疾病及び異常を豫防すると謂ふも要するに生命の延長を圖んための手段であるとも解し得るのであつて,國民體力を向上させることは,公衆衞生の向上を圖ることに通ずるのである。たゞ國民體力の向上には,その言葉の裏に國力,戰力の増強がひそみ,公衆衞生の向上には,個人の永遠の幸福追求の裏付けがあるのが大きな相違點であると思ふ。
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