フロントライン'99 障害
失語症者の“声”を聴く—コミュニケーションに障害をもつ患者を支える視角
武田 保江
1
1大阪大学大学院文学研究科博士課程臨床哲学研究室
pp.164-167
発行日 1999年2月1日
Published Date 1999/2/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661905774
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過酷な環境,一変する生活
都内を横断するJR中央線から路線を2つ乗り継ぎ,バスで30分,歩くこと20分.大学病院を出てからすでに2時間.ちょっとした買いものができそうな商店や本屋などは見当たらない.人通りもなく,団地が整然と立ち並ぶ静けさだけが印象的な街であった.こんな遠距離を2日とあけず,家族は通っていたのだ,思わずそうつぶやいた.
高血圧性脳内出血による運動性失語症.あいさつはおうむ返し,自分の名前はいえるが家族の名前はいえない.うなずきで意思表示するが,自分の欲求は伝えられない.字は書けない.右腕は廃用上肢,歩行不可.これから訪問する60歳の女性Kさんの,転院時の看護記録である.
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