連載 看護を支えるもう1つの“知” 現象学と状況論的認知・1【新連載】
“知っている”とはどういうことか?
行岡 哲男
1
1杏林大学救急医学
pp.668-672
発行日 1997年7月1日
Published Date 1997/7/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661905389
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私は,救急医学を専門としています.救急医学は,救急医療の実践を支える実学として確立されるべきものです.看護学が同じように実学を目指すものならば,共有した問題が多くあるように思います.以前,「救急医学とは何か」という考察を試み,実学としての医学にかかわる問題がおそろしく深い地層にまで至っていることを知りました.“深い地層に至っている”とは,この問題が単に医学のレベルにとどまらず,“学問”と言われる人間の知的活動の本質にかかわるものであるということです.そこでこの根を少し掘り起こしてみようと,私の場合,まず認知科学からアプローチを始め,その後,現象学といわれる領域にも関心を広げました.その過程でベナーの看護論の存在を知りました.ベナー教授はドレイファスを介しハイデッガーの現象学を基礎として看護論を展開されています.したがって,ベナーの看護論を理解するには,ドレイファスやハイデッガーという人々の考え方の基本を知ることが必要です.この基底部分の理解なしにベナーの看護論を実学としてとらえた場合,現場に混乱をもたらす危険があるように思います.
このシリーズは看護論そのものを語るものではありません.現象学や認知科学に興味のある人,また,今後ベナーの看護論を読んでみようと思う人の参考になればと思い書き連ねてみました.そこでこの第1回では,私たちが“知っている”ということを考えてみたいと思います.
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