連載 私が老人看護に魅かれる理由・1【新連載】
「老い」は暗くみじめなものなのか
山里 栄子
1
1千初富保健病院看護部
pp.480-483
発行日 1996年5月1日
Published Date 1996/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661905091
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「竹村さん,また明日,さようなら」
ナースステーションから見渡せる部屋の真んなかに置かれたテーブルの前,車椅子に座って1人食事をしている彼に向かって,私はかけようとした言葉をのみ込んでしまった.日勤の終了時刻はとっくに過ぎ,準夜勤のナースたちはほかの患者の対応に忙しいらしく,周囲には誰も見あたらない.パーキンソン病の竹村さんが食事を始めてもうどれくらい経っているのだろう.握りしめられたスプーンが口に運ばれるまでには,相当の時間がかかる.いま,声をかけて竹村さんと目が合えば,食事の介助をしないわけにはいかないだろう.「ごめんなさい」心のなかで謝って足早に部屋の前を通り過ぎた.
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