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「脳死時代」の生き方と死に方―明らかな矛盾をかかえつつ,なぜ脳死にこだわるのか
早坂 裕子
1
1東京大学医学部保健社会学教室
pp.992-993
発行日 1995年10月1日
Published Date 1995/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661904920
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中島みち氏は代表作「見えない死」で知られるように,「脳死は人の死ではない」と10年来にわたって主張し,脳死を人の死として立法化することに反対し続けてきている.本書は脳死を柱として,臓器移植やガン告知,そして死生観などについて,著者とさまざまな立場の人々との対話から構成されている.1985年から1994年の間に各種雑誌などに掲載されたものを収録したものである.
免疫学者の多田富雄氏,および作家の五木寛之氏との鼎談は,「あいまいになった生と死の境界線」について語っている.人工受精に始まり終末期医療まで,医療の拡大に伴う生死の線引きのむずかしさ.従来,西洋医学,西洋哲学により生と死を判然と分けることを当然としてきただけに,この「ファジー現象」は多くの問題を投げかける.特に脳死は,呼吸をし,心臓が動いている人間に対し,脳の機能がとまってしまったことを理由にして死を宣告するものである.このような人工的な死がなぜ必要とされているのか.それは臓器移植という主目的があるからだ.移植をする場合,臓器は少しでも新しい方がよいので,脳死の段階での死を人間の死として公認しようとしている.
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