特集 エイズの現在
エイズとのたたかい—医療の最前線で働く看護婦の皆さんへ
徳永 徹
1
1国立予防衛生研究所
pp.18-21
発行日 1993年1月1日
Published Date 1993/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661904172
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1葉のカラー写真から
いま私の机の上に,1冊の雑誌(サイエンス,1988年12月号)がある.その75頁にある1葉のカラー写真は,草花の繁る庭を背景に,米国のパークさんの4人の家族が写っている.中央に若い父親のパトリックが座り,膝の上に幼い息子のドワイトをしっかりかかえるように抱いている.その横に,これも幼い姉娘ニコルが立ち,父親にすがりつくように自分の頭を父親の顔にすり寄せている.そしてその3人のうしろに,美しい妻のローレーンが,皆を抱きしめるように寄り添っている.一見平和な家族写真に見えるが,カメラのファインダーをじっと見つめている4人の目は,いずれも深い悲しみを湛えており,私たちの胸を強く打つ.
この父親は血友病患者であり,輸血によってHIV(エイズウイルス,human immunodeficiency virus)の感染を受け,その感染に気づく以前に,妻にウイルスを感染させ,そして妻はそれを知らずに息子を出産したのであった.この写真の時点で,父親と息子はすでに発病しており,妻は抗体陽性であったが,娘のニコルだけは感染していなかった.
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