連載 介護することば 介護するからだ 細馬先生の観察日記・第34回
テレビとのたたかい
細馬 宏通
1
1滋賀県立大学人間文化学部
pp.408-409
発行日 2014年5月15日
Published Date 2014/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688102794
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とあるグループホームでの、午後のお菓子の時間。入居者のみなさんが揃ってお菓子を食べ、お茶を飲む。にぎやかな会話があることは少ない。むしろほとんどの人は黙っていると言ってよい。ちらと視線をテレビのほうに移したシロタさんを見て、職員さんが「シロタさん、テレビつけましょうか?」と声をかける。シロタさんがちょっとだけうなずくと、スイッチが入れられる。ああ、今日も始まってしまった。午後のワイドショーに、シロタさんだけでなく、他の人もなんとなく目を向ける。誰もが黙ったまま、お茶の時間が過ぎていく……。
テレビの存在は、私のように人と人との相互行為を研究する者にとっては、悩みの種である。テレビを見て入居者のみなさんが笑ったり話し合ったりといった場面は、皆無ではないが、ごくわずかである。
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