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わが国は,どの国も経験のない急な速度で高齢社会を迎え,同時に工業化,高度経済社会へと変貌を遂げた.そのなかで多くが長寿をまっとうできるようになった一方で,高齢社会は慢性疾患の増加を生み,加えて医療の進歩による救命率上昇によって,高齢障害者の急増を招いた1, 2).ごく最近まで平均寿命の短い社会であったわが国は,高齢障害者に対する社会的支援が乏しく,高齢化に伴い顕在化した介護問題から,生活に困窮する高齢者もまた増加した.
これらの社会的変化を背景に,1983年に老人保健法が施行され,その後1989年に高齢者保健福祉推進十か年戦略(ゴールドプラン),1999年には新ゴールドプランによって高齢者ケアに対する社会的サービスの整備が進められてきた.さらに,1997年9月に介護保険法が公布され,所得保障,医療保障に続く第3の新しい社会ニーズである介護に対する社会保障の一環として,2000年から介護保険による新しい社会システムが稼動を始めた.
これらの基盤整備により利用可能な在宅ケアの種類は多様となり,人々がケアサービスを選択できる時代となった.利用料についても,保険制度により経済的負担が軽減され,要介護度による一定基準が保証された.介護ニーズに社会が応えることができなかったときの病院は,「社会的入院」といわれる入院の必要のない高齢者を多く抱えていた.介護ニーズを社会保障で充足できるシステムの始動は,病院看護のあり方をも変革するものである.
高齢者は慢性疾患や障害を持つ比率が高く,何らかの理由で入院治療したあとにADL(日常生活動作)の低下が起こること,施設から在宅へと移行するとき本人や家族の戸惑いが大きいことが指摘されている3, 4).すなわち,退院後に介護を必要とする人々が大量に存在するということだ.したがって,介護保険による一貫した社会的支援である在宅ケアシステムを退院直後から起動していくことが,自立支援にとって不可欠である.退院時の病院と地域の連携がうまくいかない場合,とくに退院直後はケア提供が空白になる危険性がある.このケアの空白期間を避けるために,入院中に病棟あるいは病院から地域のサービス機関へ情報を提供するなど,患者・利用者について,情報を共有する必要がある5).その意味では,入院中にサービス調整会議を行なうことが非常に重要になる.また,退院する高齢者にとって適切なケアを速やかに導入できる体制を築くことは,看護の世界で長年その重要性がいわれてきた継続看護の理念と実践の実行が可能になったことを意味する.
さて,介護保険施行から3年が経った.介護保険施行当時と比べ,退院周辺の状況は充実されてきているだろうか.本稿では,介護保険施行後6か月を経た時点で,病院の看護職に注目し,介護保険に対する関心度,ケアサービス調整会議(以下,調整会議)の開催状況などについて質問紙調査を行なった結果と,その後の取り組みの成果を報告する.
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