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高齢者の歩行障害を改善する針治療―身近にあった医学のフロンティア
関 隆志
1
,
荒井 啓行
1
,
佐々木 英忠
2
1東北大学医学部先進漢方治療医学講座
2東北大学医学部老年・呼吸器病態学講座
pp.446-450
発行日 2004年5月1日
Published Date 2004/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661100444
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あるご婦人との出会い
ある日,腰から足にかけての痛みがひどくて歩けない86歳のご婦人が,お嬢さん夫妻に支えられるようにして外来にいらっしゃいました.高血圧がみられ,18歳のときには関節リウマチの既往があります.また,3年前から下肢の浮腫を自覚していました.さらに足の指にしびれがあり,背中が曲がり,ベッド上で体位を変換するのもずいぶん時間がかかる状態でした.刺されるような膝の痛みに対して近医で神経ブロックを定期的に受けていましたが,注射後10日ほどは楽でも,また元の痛みに戻ります.そのため湿布を腰や大腿にはり,痛む大腿をよく手でさすっていました.
中国医学による診断は,腎陽虚(冷えの症状・足腰の弱り・尿失禁やインポテンツなどがみられる病態),血瘀(刺されるような固定性の痛み・月経血の血塊・軽い打撲による内出血などがみられる病態),肝血虚(筋肉のしびれ・眩暈・視力低下・月経周期の延長などがみられる病態)というものでした.その日は,とりあえず臀部の秩辺という経穴と,あとでご紹介する腎兪という腰の経穴に針治療をして帰宅していただきました.治療したその日は,腰から下肢にかけてずいぶん楽になったそうです.
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