特集 助産婦の100年—世紀を超えるもの
医療の中の助産
松岡 悦子
1
1旭川医科大学・社会学
pp.1031-1036
発行日 2000年12月25日
Published Date 2000/12/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611902542
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前近代社会の出産—冠婚葬祭としての出産
この100年の日本の出産の流れをたどってみよう。表1のように,出産の変化を大きく前近代,近代,ポストモダンに区切ってみると,出産が医療の一部と考えられるようになったのは,近代以降20世紀後半に入ってからである。それまでの妊娠・出産は,特に郡部では,結婚式や葬式と同じ冠婚葬祭や年中行事の一部,あるいは家の新築や農作業と同じ共同作業の機会と考えられていた。村に新しいメンバーが加わる出産は,共同体全体のできごとでもあったから,出産の前後には村人を巻き込んでいろいろな儀礼が行なわれた。そして結婚式や葬式が村人同士の協力で行なわれるのと同じように,出産も手慣れた年寄りが互いに手を貸し合って行なわれ,無事に生まれた後は隣近所や親類が集まって祝いの宴がもたれた。
このように,出産が村の生活リズムや助け合いの一部になっているときに,赤ん坊は免許もちの産婆に取り上げてもらわなくてはいけないという産婆規則(明治32年制定)など,村人の日常感覚からはほど遠いものだっただろう1)。
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