連載 とらうべ
わからないこと
佐藤 愛子
pp.355
発行日 1998年5月25日
Published Date 1998/5/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611901924
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この頃はハナタレ小僧がいなくなったが,私の子供の頃(昭和初期)はハナタレ小僧全盛期で,ハナタレ小僧即ち腕白小僧という趣だった.腕白小僧は洟を拭くために常に洋服の袖がテカテカと光っていて,必ず棒切を握っていた.女の子を見ると餌を見つけたライオンみたいにノソノソ近づいて来て,いきなり「通せんぼ」をしたり棒切をかざして追いかけて来たりした.その頃私の親友にキヨちゃんという女の子がいたが,彼女は腕白,ハナタレに立ち向かう唯一の女の子で,「なにをーっ!」と立ち止まって睨みつけると,腕白は尻込みしてどこかへ行ってしまった.このキヨちゃんも「ハナタレ娘」でいつも水洟を鼻の下にこびりつかせていた.そんな私にとって「ハナタレ」は強さの象徴だったのである。
ハナタレ小僧がいなくなったのは,子供の栄養状態がよくなったことや,抗生物質の普及のためだろうことは医学にうとい私にも見当がつく.だがある時,アレルギーについての本を読んでいると,昔はアオ洟,水洟がアレルギーの原因となる花粉を流し去っていたので,アレルギーが抑えられていたという説がある,と書いてありびっくりした.そういえば花粉症に悩みながら棒切をふり廻しているハナタレ小僧なんていなかった.また,昔の子供の腸にはたいてい蛔虫がいたが,蛔虫が絶滅させられたこともアレルギーの増加のひとつの原因だと書いてあってまたびっくりした.
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