特集 臨床助産婦のジレンマ
人工妊娠中絶を受ける人の迷い,助産婦の迷い
田所 喜美子
1
,
中川 光子
1
,
佐藤 光子
1
1長岡赤十字病院
pp.101-106
発行日 1992年2月25日
Published Date 1992/2/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611900503
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はじめに
人工妊娠中絶は生命の抹消であり,生命の誕生に関わるという職を自ら選択した助産婦にとっては何ともやりきれない気持ちになる。まして妊娠中期ともなると,ますますその感情は強くなってしまう。“中期中絶をせざるをえない対象”に目を向けることができず,つい“中期中絶”そのものに反感を抱き,それを選んだ人に対し“ひどいことをする人”と責めたくなったり,“せっかく授かった生命なのに”と,もったいない気持ちになったりする。そういう自分の感情と“対象をそのように見てはいけない”という感情が交錯してしまう。
しかし,中期中絶をする対象も「これがベスト」と思い,割り切って臨む人はほとんどいない。決断するまでつらく,悩み尽くしたあげくの一大決心なのである。そして陣痛の苦しみを乗り越えて胎児を娩出した後は,「赤ちゃんに酷いことをした」と後悔の念を抱きやすい。産めない妊娠をして苦しんでいる人に対しても,私たちは看護をする役割がある。しかし自分の人間としての生き方,生命に対する価値観とのギャップがどうしてもあるので,私たちは悩み苦しんでいた。
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