Medical Scope
第一呼吸の発来因子をめぐって
島田 信宏
1
1北里大学病院産科
pp.970
発行日 1989年11月25日
Published Date 1989/11/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611207734
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新生児の第一呼吸はどのようなメカニズムで始まるのか。今年7月東京で開かれた第25回日本新生児学会で,第一呼吸に関してユニークな講演がなされました。
これまでの多くの産科学の教科書には,出生時に新生児が受ける温度差の寒冷刺激,分娩中の機械的圧迫からの解放,皮膚の刺激,出生時の低酸素血症,これと相対する高炭酸ガス血症,アシドーシス,血圧上昇,光の刺激,音の刺激,カテコルアミンやグルココルチコイドの上昇,胸郭のリコイルなど多くの因子が集まって新生児の第一呼吸はおこるのだとする「多因子刺激説」が述べられており,私たちもそのように教わってきた。生まれてくるときの多くの刺激が呼吸を誘発するのだとするこのような考えと,まったく反対の,次のような考え方もある。つまり,胎児時代に胎児は子宮の中で何とか呼吸しよう,呼吸しようと努力をしつづけている。しかし,多くの抑制因子によって実際に呼吸するのを止められている。そして,出生と同時にその抑制因子から解放されると,新生児は元気に第一呼吸を始める,という考え方はいかがなものであろうか?つまり発想の転換である。胎内での暖かさ,暗さ,低酸素状態,臍帯血流があるということ,水中での圧力など,胎内での胎児に関するこれらの環境因子は,すべて第一呼吸をしないように胎児に抑制的に働いているのではないだろうか。
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