特集 出産の新潮流と助産婦
自宅分娩にかかわって
伊藤 清美
1
1岐阜県高鷲村
pp.638-643
発行日 1989年8月25日
Published Date 1989/8/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611207670
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しろうとばかりで出産
平成元年2月10日,午後8時02分,Sさんの夫の手で取り上げられた女児が,その手の中で(まだ床へおろさないうちに)オギャーオギャーと元気な声で泣きました。私は気を失うほど安堵して,心の中では"ワァー,泣いた泣いた!死んでない!アー助かったァ!神さま仏さま,感謝,感謝!"と叫んでいました。とにかく無事に子供が産まれたんだと飛び上がるほどうれしいと同時に,生まれた児は大丈夫だろうか,Sさんは大丈夫だろうかと不安(と言うより恐怖に似た不安)で一杯になりました。この場所にいるのは,皆しろうとばかりです。SさんとSさんの夫,Sさん夫婦の友達(女性),Sさんの夫の両親Sさんの母親,そして私ともう1人の村の保健婦です。私はたまたま助産婦の免許があるというものの,学生実習で体験しただけで,それから17年間は村の保健婦として働いているので,まったくのペーパー助産婦でしかありません。しかし,私ももう1人の保健婦も分娩にかかわる危険は充分に知っています。最近は特に異常分娩が目立つとか……。Sさん宅1階のこの6畳の部屋が,いつ悲劇の部屋になるかしれません。そんなことを考えると心臓がドキドキしてきました。
冬です。2月です。前日まで暖冬だ暖冬だと言われていたのが,まるで意地悪をするかのように,夕方の4時頃から雪がポッポとふり出し,気温も急激に下がってきた日の分娩となってしまいました。
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