特集 出産の新潮流と助産婦
暴力なき出産—赤ちゃんのために—"超自然分娩"の実際
斉藤 博
1
,
小宮 秀男
1
1斉藤産婦人科病院
pp.632-637
発行日 1989年8月25日
Published Date 1989/8/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611207669
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はじめに
1974年,フランスで出版された「暴力なき出産」の中で,著者であるパリ大学医学部産婦人科のフレデリック・ルポワイエール博士は「誕生の瞬間赤ちゃんが泣き叫ぶのは,元気な証拠なのだろうか。本当は苦しくて泣いているのではないだろうか」という疑問を投げかけている。赤ちゃんの感覚器官は生まれるずっと以前から働いており,誕生時には視覚,聴覚は鋭敏である。赤ちゃんに余分の負担をかけて恐怖心を与えないように,分娩室の光と騒音を最小限にする必要があると提言している。
彼は1966年頃から"暴力なき出産"という独自の理念に基づいた方法で,約10年の間に1万人以上もの子をとり上げ,その結果,誕生の際の感情的な環境には個人に強く影響を与えるインパクトがあるとの確信を深めたと言われている。今でこそ,新生児の研究が盛んに行なわれるようになったが,当時はまだ,生まれたばかりの赤ちゃんはすでに人格を持った人間だという彼の主張は,通説に反すると言われていた。しかし彼は「新生児は平和だった母親の胎内から,たとえようのない苦痛に何時間も耐えて生まれてくる」とし,世界で初めて赤ちゃんの立場に立って誕生を考え,"暴力なき出産"を提言したのである。
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