特集 帝玉切開--最近の動向
帝王切開と母児の権利
小笠原 一夫
1
1中央群馬脳神経外科病院麻酔科
pp.475-480
発行日 1988年6月25日
Published Date 1988/6/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611207399
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はじめに
近年,医療における主体としての病者の扱われ方が問われ,与える者とさずかる者との関係の上に立った医療体制への批判が「患者の権利宣言」の運動として拡がりをみせてきています。そうした中で「患者の権利宣言」のキーワードである「自己決定権」や「informed consent(知らされた上での同意)」が今や日本でも市民権を得,あちらこちらで目にするようになりました。
しかしこのような動きは現象の一部であって,より深くその基にあるのは,近代科学を頂点とした権威から一人一人の人間が自らの身体と感性とを解き放ち自分のものにしようとする21世紀へ向かう大きな流れであるように思えます。核と公害・薬害に代表される近代科学の負の遺産は,60年代から個別的に告発され始めました。そして今や近代科学—産業社会そのものが,人間生活や人間性の奥深いところにまで影響を及ぼし,自然とその一部たる人間を侵すものとして俎上におかれるようになってきました。その中で「もっと人間らしく生きたい」という願いが,あらゆる分野で「いったい主人公は誰なんだ」という問いに結びついてきているのではないでしょうか。
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