研究・調査・報告
母性の発達変容過程の研究(1)—妊娠・出産・子育てによる母性性の獲得
細井 啓子
1
1京浜女子大学(発達心理学,性格心理学)
pp.991-997
発行日 1986年11月25日
Published Date 1986/11/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611207001
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母親は妊娠・産褥期と子育ての経験をどのようにとらえているか
妊娠中,母親にとって胎児は自分の身体の一部でありながら,実際は別個の人間として胎内で生き続ける。そして,出産と同時にまったく別の人間になっていくのである。妊娠・出産は,女性にとっては自然の生理現象であると同時に,心理的な変化をもたらすものである(Deutsch,19451);細井,19812);Rubin,19843),など)。
最近では,産科学などの他に心理学,小児医学でも,妊産婦の研究がさかんになってきている。しかし,あくまでも研究の対象は子どもであり,母親の心理は,どのように子どもを産み育てながら変化していくのか,などの研究はあまり行なわれていない。欧米でも母親の心理を縦断的に研究することは,ほとんどみられない。日本では,母性愛を扱った平井(1976)4),育児態度の世代差を扱った詫摩(1976)5),母性的役割(母性性)と女性的役割(女性性)の獲得を発達的にとらえた細井(1984)6)などがあるが,まだ母親そのものを研究の対象とすることは非常に少ない。
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