特集 母子関係論—その最近の成果
母性の成熟過程について
千賀 悠子
1
1日本総合愛育研究所・研究第一部(母性保健)
pp.673-679
発行日 1981年9月25日
Published Date 1981/9/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611205900
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
はじめに
皆さんは最近,母性について論じられている報告を多く目にするようになったと感じてはいないだろうか。しかし,母性に関する研究報告の多くは,論者各氏の"母性観"を軸に展開されており,"母性"についての概念の共通理解が得られるには歳月を要するようである。
WHOの母性保健委員会によると,「母性とは,現に子どもを生み育てているもののほかに,将来子どもを生み育てるべき存在,および過去においてその役目を果たしたものをいう」として,子どもを生み育てることのできる女性のすべてを"母性"ととらえている。また,H. Deutschは「母性は社会学的,生理学的,感情的統一体としての,母の子に対する関係を示すものである。この関係は受胎と共に始まり,その後の妊娠,出産,飼養,養育の生理的過程を通じて続く」という概念に立っている。今日では,H. Deutschのいう"母の子に対する関係"という概念を敷衍し,「母性とは,女性の母なること。すなわち,子を生み育てる過程であり,かつ,その母—子のかかわりあいから形成されるもの。つまり母子の相互作用から形成される」という見解のもとに,多くの研究報告がなされている。本文では,"母性とは,そして母性はどのようにはぐくまれていくのか"についての考察の手がかりを提起したい。
Copyright © 1981, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.