新刊紹介
『母性の研究」—その形成と変容の過程:伝統的母性観への反証
新道 幸恵
1
1国立公衆衛生院
pp.933
発行日 1988年11月25日
Published Date 1988/11/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611207511
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- 文献概要
本書は,著者大日向雅美氏がお茶の水女子大学で学術博士を取得されたときの学位論文「母性の形成及び変容過程に関する研究」(主論文)と「父性をめぐる現状と問題点—母性研究との関連性について—」(副論文)が納められた学術研究書である。しかし,文章のタッチが滑らかであり,学術書にありがちな難解さはなく,「母性」になんらかの関心のある読者には興味をそそられながら読み進むことができる。また,母性の研究に関心のある人には「研究」のプロセスや「研究論文」のスタイルについて多くの示唆を得ることができよう。
本書では,副題でもある「伝統的母性観への反証」を行なうという著者の研究視点が,現状分析と広範でかつ網羅的な文献の検索吟味の展開過程のなかで明らかになっている。母性本能説や母子関係を聖域とみなす風潮が母性研究の方向性を歪め,そればかりか,学問的研究課題としての価値づけまで奪っていたと指摘し,次のような研究的視点が具体的に示されている。母親の子供に対する関係を「生理的・生物的次元」「社会的・文化的次元」「個の次元」の3つの次元で捕えた実証的研究が必要であることと,研究対象も妊産褥婦に限定せず,女性のライフサイクル全般にわたることの必要性が強調されている。
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