特別企画 産後神経症の周辺
ケース・レポートを読んで
産婦人科の立場から
母性の不安と妊娠過程における心理的変遷
岩淵 庄之助
1
1川崎市立病院産婦人科
pp.476-481
発行日 1977年8月25日
Published Date 1977/8/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611205245
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1.全人格的な患者の理解,把握に意欲をもやす山村さんの活動
このケース・レポートは,24歳,2児の母親の産後神経症にまつわる母性の不安と,役割からの逃避をめぐって,苦労の多かった体験を通じて示された,筆者らの患者に対する全人格的な理解,把握によって治癒に導いた珍しい症例である。
一般に多忙な外来では身体的な診察に追われて,余程な顕示的な精神症状のないかぎり,医師は患者の不安な心理まで関心をもたない風潮がある。これはひとつには,この国の心理的な土壌に精神的な疾患に関して歪められた感情が存在し,本人あるいは周囲の人々が困惑しない限り精神科受診に大きな抵抗を示す傾向があるからである。たとえ産婦人科や,内科,外科等の身体診療科においてこれらの症候を案じて精神科受診をすすめても,納得されないばかりか,「うちの嫁(娘)に,ケチをつける」と反抗すらみられ,私どももこのような抵抗を再三再四経験している。また入院期間の短い産後に発生した症例ならともかく,一般には精神科病棟を併設していないのが常であるので,一旦退院してしまうと,入院を要した患者の情報にも接しないものである。
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