特集 夫立ち会い分娩
「新しいお産」と夫の役割
福田 稠
1
1福田病院
pp.656-661
発行日 1986年8月25日
Published Date 1986/8/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611206931
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
はじめに
最近お産はずいぶん安全になったといわれる。もちろん,数多い症例をとり扱う産科医にとって,時として,肝を冷すことは少なくないが,統計的にみれば,周産期死亡率は低下しており,母体死亡の症例も減少した。これは,ひとえに近代産科学の進歩のおかげであり,とりわけ,ME機器の発達,胎児胎盤機能検査の向上笠に負うところが大きいと思われる。現在のお産においては,各種のモニターや,場合によってはエラスター針等による血管確保なしの分娩は考えられず,さながら,分娩室はICUのような観を呈している。いいかえれば,少なくとも日本においては,お産の理想的な姿は産科ICUにおけるお産といっても過言ではない。また,お産の「安全性」を考えるときに,この方向は決して間違っているとはいえない。しかし,お産というものを「人間」あるいは「女性の人生」という視点に立って考えると,このような方法が果たして正しいものか疑問に思えてくる。
お産は,現在,病気やけがと同様にとり扱われ,時には,子宮癌の患者さんの横に産婦が入院させられるということも起こり得る。しかし,お産は決して病気やけがのようなアクシデントではなく,女性が女性として生を受けた以上,その多くが経験し得る大切な人生の1頁である。入学や就職,結婚などと,なんら変わることのない,ある程度予測しうる出来事であり,生物学的にも,初潮や閉経と同じように女性のライフサイクルの1コマなのである。
Copyright © 1986, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.