グラフ
島一春氏「終りなき旅」を往く
本誌
,
八木 保
pp.85-88
発行日 1983年2月25日
Published Date 1983/2/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611206176
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
本誌連載中の『終りなき旅』も好評のうちに8回目を迎えました。小説のモデルは大先輩格の田中志ん氏ですが,"加藤志ん"を描くにあたり,作者の島一春氏は,数回にわたり田中氏に丹念な聞きとりを行ないました。その膨大な聞きとりの中から選び抜かれ熟成されたイメージが,言葉となり文章となって表現されていきます。
"志ん"の助産婦としての基盤は,横浜の瀬谷医院からすべてが始まり,形成されていったといえましょう。瀬谷院長夫妻も"志ん"の抜きん出た能力と努力に対し,後押しを措しみませんでした。"志ん"が勤務を始めた頃,瀬谷院長夫妻には鶴子,志津子,一郎という3人のお子さんがあり,3人はたちまち"加藤ちゃん"になついたということです。60年を経た今も"加藤ちゃん"と3人きょうだいの交流はつづいており,島氏の取材の要請にこたえ,久しぶりにうちそろって、昔、瀬谷医院のあった大丸谷を訪れました。大丸谷はそれぞれの胸に思い出が詰まった場所であり,時計の針が60年前に一挙に戻るような懐かしい話が次々と展開されました。島氏も,小説の舞台となる現地で,登場人物から田中氏の若い頃の印象や医院での楽しかった思い出などを聞くうち,創作への意欲がいっそうかきたてられた様子でした。小説では本号のあと,"志ん"は東京に出て産婆を開業するわけですが,今後の"志ん"の活躍に期待したいものです。
Copyright © 1983, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.